2018年度の建築学会が始まりました。
今回,通常の研究発表とは別に,建築計画の研究懇談会に寄稿させて頂きました。
若手研究者の研究テーマが焦点ということで,題目は「建築家をコロス(人間拡張),建築もコロス(空間拡張)」です。
まずは,この機会を頂き,ありがとうございました m(_ _)m
さて,招待寄稿ということで2頁を頂いたのですが,釈明補完版をこちらに書きます。
単純にページが足りなくて載せられなかった内容があるのと,関連事例へのWEBリンクがWEBの方がご紹介しやすいからです。
長いので,飛ばし読みで十分です,ご笑覧頂ければ嬉しいです。
なお原稿そのものはこちら
「建築家をコロス(人間拡張),建築もコロス(空間拡張)」>「ジェネレーティブデザインAI」,「超空間デザイン」
1.「雲海を切り拓く」(但しまだ何も出来ていない)
やや不適切かもしれない表現を表題に用いましたが,現在の研究テーマを率直に言語化した表現です。印象的になるように敢えてこのような言葉を用いている意図も正直ありますが,現在のテーマ,これからの目標を端的に表現しています。誰かに怒られるかもしれませんし,誰にも意義を共感して貰えないかもしれません。ただ,任期付きの宿命を背負いながらいくつかの大学(建築学科以外の学科も)を転々とする中で,「誰にも怒られない,誰にでも意義を共感して貰えるような研究が全てじゃない」。もしかすると,「誰にでも意義を共感されてしまう研究なんて,未来を創造するという意味では大した研究じゃない,大学人が取り組む研究じゃないのかも」とすら思うようになりました。
工学的な意義を絶対的価値とする建築・都市分野とは相容れない価値観かもしれません。ただ,何となく多くの人が感じているであろう,建築・都市分野の閉塞感,何も進化していない感,このような現状を表題のように考えることで切り拓けるのではないか,と考えています(日々自分に言い聞かせています)。それでは,表題について後述させて頂きます。
2.「情報技術が分野の命運を握っている」情報技術でなくてもいいが革新が必要
昨今,分野を問わず情報技術に注目が集まっています。建築都市デザイン分野においても普及と革新が期待されます。「期待される」と表現しましたが,今後は,情報技術を使いこなせるか否かが,企業や個人の命運を握るといっても過言ではありません。情報技術を活用するプレイヤーが活躍の場を広げ,過去の価値観や方法に固執して挑戦を躊躇し続けるだけの者は厳しい現状に追い込まれます。これは筆者の肌感覚ではなく,「i-Construction」を推進する国土交通省の動きからも明確に読み取れます。下記アドレスの「i-Construction」をご覧頂きたい。
http://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/index.html
建設産業人口が将来的に減少することは周知の事実です。しかし,最大の問題点は生産性(付加価値労働生産性)の低さです。前掲のURLにある国土交通省の資料に拠れば,建設産業の一人当たりの生産性は相対的に低いです。同時に由々しき問題であるのは,他分野と比較して生産性が余り向上していない事実です。少ない人数でこれまでと同等以上の質でインフラを支えなくてはならない時期がまもなく到来するにも関わらずです。しかし生産性は進化していない。この事実は,建設分野だからねー,といった悠長な状況ではなく,生活を支えるインフラの維持と建設において必要な質を担保できなくなる危険性を示しています。
このような現状に対して国土交通省がリーダーシップを発揮しやすい土木分野において情報技術の適用を推進している活動が「i-Construction」です。パイロットプロジェクやリーディングカンパニーが複数登場し,産業に変化の兆しが現れています。効果が確認されつつあることから,土木分野だけなく建築分野にも動き広げようとしていることも前掲のURLから読み取れます。ここで言う「国土交通省のリーダーシップ」には発注者としての権限が含まれます。つまり,極端に表現すれば,情報技術の導入を土木工事の発注要件にしたのです。このことから分かるのは,建設技術だけでなく情報技術にも長けているか否かが受注を左右する,情報技術のリテラシーが企業や人の命運を左右する時代が,建設分野にもようやく到来する,ということです。
近い将来,建築情報技術は上述のような状況を打破する頼もしい「ナイト」になるはずです。但し,情報技術にも長けた人材の育成を怠り,該当分野を外注してその場を凌いだ時(周辺企業だけが利益を伸ばした時)には,既存の建設産業のプレイヤーを苦しめる「死神」にもなるでしょう。
3.「建設IT人材」の育成
上述を例に実社会では情報技術の活用が喫緊の問題ととらえられ始めています。一方で,大学では「情報技術が活用できたらいいね」程度の牧歌的な認識が現状です。他分野より実務に近いはずの建築系教員も認識と見通しが十分とは言えません。また確かな認識を持っていたとしても,思考の硬直化によりこれまでの方法論や価値観に対するバイアスが強く,新しい試みへ試行が緩慢です。建設だけなく情報技術にも長けた人材を「建設IT人材」と呼び,政策として育成を推進しようとしているにも関わらず,大学の教育・研究が迅速に反応しているとは言い難い現況です。反応の迅速化には「建築情報技術」の最新動向から可能性の大きさを具体的に知ることが契機になるかもしれないと考え,以降に筆者が知る事例を紹介します。想像も含まれますがが「可能性を閉じず」ご覧頂ければ嬉しいです。
4.「建築家をコロス=永久に生かす」人間の拡張と高度化
既往に喧嘩をふっかける表題の姿勢は,人間(建築家)・建築の解明,価値の再定義にもなると考えています。建築家が嫌いな訳でもなく,建築が嫌いな訳でもありません。「建築家をコロスとは,その高度な知性への挑戦(解明)」です。また「建築家をコロスとは,建築家の永久保存」でもあります。僕は作品・言説・お人柄も含めて,原広司先生が好きです。直接の面識はないのですが何故か好きです。ただ人間には寿命があり,それが悲しく,日本の,世界の,何より僕にとっての損失です。なので,後世に渡って原先生を感じられるように,その感性を保存・再現できたらいいなぁ,思ったことが表題の研究テーマを掲げるようになった契機です。
気持ちが悪く聞こるかもしれませんが,このような考えは「歴史」です。恋しい人が亡くなってからも身近に感じたい,歴史から学べる教訓,Twitterの偉人botなども同じです。表題は「歴史」と「歴史の参照」の方法論に情報技術を用いるだけ,と言い換えることもできます。
このような考え方に適用可能かもしれない技術が「Deep Learningによって作成された人工知能(AI)」です。個人的にDeep Learningの最大の利点だと思うことは,対象の原因と結果の因果関係を表現する際に,対象を表す入力(特徴量)自体を探索できるです(これが逆に弱点にもなるのですが・・・)。人が仮説する因果関係を超えた,人の認知を超えた超認知の世界で学習する人工的な知能技術を用いれば,特定の作家の感性を保存・再生できるように人工化できるかもしれません。このような考えから直近で取り組んでいる研究が「デザイン支援AI実現に向けた基礎研究 −Deep Learningを用いた街並み画像の都市名と感性・印象評価の推定−」です。まだ論文投稿の準備中の段階のため原稿をご紹介することができませんが,特定の人物の画像に対する印象をDeep Learningがある程度の精度で学習して保存・再生できることを確認しました。発表スライドの一部を下記に用意しましたので良ければどうぞ。
http://satoshi-bon.jp/2018/06/30/ai-01/
さて,仮に上記の研究が上手く進めば何ができるようなるのでしょうか?
つまり研究が目指しているのは「ジェネレーティブデザインAI」です。
「ペアミーティングAI」:特定の作家にエスキースをして貰うかのようにデザインを生成する
上述にて紹介した研究では特定の人物の画像に対する印象をDeep Learningがある程度の精度で学習して保存・再生できることを確認しました。このはるか先の延長ですが,原先生AIを作成できれば,原先生を隣に感じ,意見を求めながらデザインを考えることもできるかもしれません。想像すると研究意欲が高まります!
ちょっと嗜好が違う例ですが,下記のような技術もデザイン支援に関する興味深い,+分かりやすい,+クリエイティブと呼ばれる人の行為のAIの可能性を感じさせる実装済みアプリケーションです。
https://paintschainer.preferred.tech/index_ja.html
「デザイン発散AI」:保存した感性の再生によるデザイン生成
さらに研究意欲が高まる夢物語ではないかもしれない目標です。これを可能にするのが,コンテンツ生成AI,対立的生成ネットワーク「GAN(DCGAN)」とよると呼ばれる技術です。これは生徒と先生の関係のように生成器と判定器が,さらに面白いのは共に成長しながら対象を生成する深層学習です。
https://youtu.be/XOxxPcy5Gr4
https://arxiv.org/abs/1710.10196
動画で写真のようであるが実在しない画像が無数に生成されている様子が見られたはずです。この技術で建築都市のデザインを生成することができるかもしれません。例えば,コルビュジェのような,とか,ニューヨークのようなとか,京都駅みたいな,とかです。デザインを進めるときには既往のデザインをソースにすることが度々あります。このようなデザインの生成・発散を強力に補助してくれる技術になるかもしれません。
このような思考で試行錯誤中の研究が下記です。
「デザイン演算AI」:特定のデザイン要素を足し引きするようなデザイン生成
上述の過程では,画像がn次元のベクトルで表現されます。画像(デザイン)がn次元のベクトルにより数式化しているということです。これにより,特定のデザインを表現する特徴量の把握と操作が可能です。厳密ではありませんが分かりやすい表現にすればですが。少し違いますが「デザイン演算」の意図が分かりやすい+面白い事例がありますので下記に紹介します。
上での例では人のイラストですがデザイン要素の特徴量の操作が可能で,それに応じたデザインが生成されています。これを建築・都市デザインに応用できるかもしれません。例えば,窓を大きく,壁の彩度を高く,といったデザイン要素の演算によるデザイン生成です。
上での紹介した「コルビジェネレーター」にも通じる試行が少しあります。
「超認知デザインAI」:人のデザインに対する選好アルゴリズムを超認知の世界で理解したAI
デザインの選好(好き嫌い)というのはその原因や因果関係を本人が正しく理解しているとは限りません。特にデザイン教育を受けていない人はそうかもしれません。好き嫌いは判断できるけど,そのアルゴリズムが不明瞭な場合,本人が理解する選好アルゴリズムを超えてデザインと選好度の関係を学習したAIが,本人(デザイナー)が驚くほど選好にマッチしたデザインを生み出すことができるかもしれません。うーん,なんかワクワクします!
ところで,この期待膨らむ対立的生成ネットワーク,実は,この魅力的な可能性は対象(例えば,オフィスや住宅の画像)を分類できる判定器のAI作成が可能であることが前提となるのです。この意味でも,上述した街路名を推定できるAI(京都っぽい街並みの生成),訪問意欲を推定できるAI(訪問したくなるような街並み),の研究を行っています。
「アンサンブルデザインAI」:「時代も場所も超えた共創」
例えばザハさんと原先生の共創です。これはアンサンブル学習と呼ばれるDeep learningの延長にあり得ます。複数人のAI,複数種類のAIの総合的な判断により精度を向上させることを意図したDeep learningです。(簡単に言えば,多数決ですね。だんだん本当に「人」っぽくなって来ました)まだコンテンツ生成に至った例を僕は知りませんが,延長にAI化した特定の作家同士の共創があり得ます。
「デザインイメージダイレクト可視化AI」:頭の中(脳内)にあるイメージをダイレクトに可視化してデザイン(コミュニケーション)する
「頭の中にある案を外部化できたらいいのに」と一度は思ったことがあると思います。夢物語に聞こえるかもしれませんが,なんと,関係する基礎研究があります!。つまり「脳内のイメージを「手」を経由させずダイレクトに表現する」という技術です。「ヒューマン・コンピュータ・インタラクション」に分類されるのかもしれません。
https://www.youtube.com/watch?v=jsp1KaM-avU&index=27&list=PLT3ig2nxhTFYdnilre0oA8MteMdRFcEin&t=0s
https://www.biorxiv.org/content/early/2017/12/28/240317
上の研究は少し分かりづらいかもしれませんが,脳波のデコーディング研究です。被験者が見ている物体を脳波の深層学習から画像化する研究です。
まだモンスターのような画像です。ただ,その分デザインの発想としておもしろいかもしれません。また人が物体をとらえる際の本質的な認識を画像として表現しているのかもしれません。
少し話しが逸れてしまいましたが,精度が上がり,視認している物体だけでなく,イメージでも可能になるかもしれません。そうなれば,デザイナーのイメージを即時に外部化(画像など)する技術につながりますこれはデザインの高度化・スタディの高度化につながります。自身及び他者とのデザインコミュニケーションが圧倒的に促進されるからです。また,デザインの外部化手段を持たない人(例:クライアントさん)のイメージが外部化されることで,同じくコミュケーションが円滑に進むかもしれません。
いずれにしても発展を強く期待し,脳波計測デバイスがあればぜみ取り組みたい研究です!
(なお僕はスケッチがとても苦手です)
以上,話が散らかり,飛躍している面もありますが,このような情報技術の建築・都市デザイン分野への適用に強い興味を持っています。
AI,AIと連呼して疲れましたが,
つまり,建築家をコロスは,「ジェネレーティブデザインAI」,建築家(人間)をより高度に拡張したい,です。
5.「建築もコロス=空間を別次元に(で)魅力的に=超空間デザイン」
「空間を別次元なほどに魅力的に」:空間に情報空間という新たな次元を加える → 超空間デザイン?
次に,できれば「建築もコロス」です。「建築とは様々な事象が総合芸術として顕在化した現象」,「その普遍性を如何に描くかが計画・設計の醍醐味」,であると感じています。一方でいつまで繰り返すのか?という疑問もあります。普遍性(と場所性)への過度な偏向が,建築を固定された物に縛りつけている気がします。そこで,「仮想空間との融合を前提とした,融合先あるいは融合元としての建築都市理論」を思考したいと考えています。これは他分野の空間の進化が契機です。プロジェクションマッピングを一例に空間は進化しています。例えば舞台空間は仮想空間(映像)との融合により,新たな次元を得て既往の延長とは違う次元に進化したと思います。建築の空間はどうでしょうか?同じことを起こせるはずです。
また,近年のセンサーデバイス技術発展を背景に,センシング技術を用いて動く空間デザインの試みが発表され,世界的な注目を集めています。例えば下記です。
https://www.youtube.com/watch?v=lCARHatJQJA
人の動きに応じて形状を変化させる机です。驚嘆に値する動画です。
ただ,石井先生の講演でお聞きした記憶が正しければ,はコンセプト動画であり,プリプログラミングに応じて動くブロックに人が合わせているそうです。しかし,「人に限らず対象の動きに応じて変化する空間」が創成される将来とインパクトの大きさが強く感じられる試行です。これまでの空間デザインの考え方を根幹から変わり,空間が変化することを前提に空間をデザインする能力とそれを可能にする技術力が求められる時代が訪れることを予期しています。固定観念に囚われることなく可能性を試行することで,空間をより快適に楽しくする可能性がまだまだあることを感じます!
「空間を別次元で魅力的に」:情報空間という新たな職域 → 超空間デザイン?
「仮想空間に生きる,はもう空想ではない」と本当に考えています。
これはHCI分野,自然言語処理・VRコミュニケーションの研究者との出会いが契機です。例えばヒューマンコンピュータインタラクション/インターフェイス分野では触覚までも電気的に再現が可能です。つまり電気的なデバイスにより物体との接触や衝撃を再現できる,ということです。「ヒューマンハッキング」とでも呼ぶのでしょうか? なんとこれが既に数年前に開発され,しかも複数のバージョンで販売されています!
https://vimeo.com/27044937
https://www.youtube.com/watch?v=AcFkhWpECD8
このようなXR(VR/AR/MR)技術がさらに進化し,仮想現実空間にさらに没入できるようになった時,「仮想現実空間はあらゆる分野にとってのブルーオーシャン」と言えます。これは建築都市デザイン分野でも同様です。極端に聞こえるかもしれませんが,仮想現実空間の空間デザインは,建築・都市にとって新たな産業分野です。
しかし,与条件が劇的に減少する仮想現実空間では,建築家よりもスターウォーズやAKIRA等のグラフィックデザイナーの方が優れた空間デザイナーになるかもしれません。建築教育を受けた者の特筆すべき能力は,与条件下での構築力とプレゼン力です。与条件が劇的に減少する仮想空間でも優れた空間デザイナーと地位を確立できるとは限りません。
但し,「仮想現実空間への没入感は,空間が現実世界の延長にあった方が高い」と言われています。これは「xR(VR/AR/MR)建築家」という新たな職域の誕生のseedsです。しかし,現実世界の計画論・設計論をそのまま持ち込めるかは不明です。例えば,VR上の共有空間における人同士の関係性を要因付ける椅子の配置,人が快適性を感じる天井の高さ,等です。つまり,高橋鷹志先生のご研究のVR編が必要かもしれません。このような「xR(VR/AR/MR)建築理論」に取り組んだ研究が「没入型仮想空間における空間知覚の研究-パーソナルスペースの検討を想定した距離の知覚と心理評価を対象として-」です。こちらは技術報告に2018年9月号に掲載して頂いた研究を紹介します。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/24/58/24_1303/_article/-char/ja
偉い人達の延長線から外れたいと思っています。
職域を変えるといいつつも結局は狭まり続ける建築,社会的地位を下げ続けた建築,今こそ,先人が示してくれている延長戦から大きく外れた新しい線を牽く時です。
「xR(VR/AR/MR)建築理論」に資する研究や実践的な作品制作が積み重なることで,仮想現実空間に人が快適に暮らすことへの寄与を職域とする「xR(VR/AR/MR)建築家」という職域が誕生するかもしれません。既往の建築・都市デザインに関わる人間はこの職域を逃してはいけないと思います。
つまり「建築もコロスは,空間を別次元に,あるいは別次元で魅力的にしたい」です。
6.「デジタルコンストラクション」:人,AI,ロボットのチーム
僕の興味は建築情報技術の中でも「設計・計画」にあります。
そのため前述のような研究テーマになるのですが,「設計・計画」以外にも勿論,情報技術の適用可能性は多々あり,興味深い事例や関連技術もあります。
そこで「設計・計画」以外の分野として「デジタルコンストラクション」を紹介します。前述した一人当たりの生産量,に直接関わる話しだからです。
近い将来,「人がAIとロボットをパートナーに仕事する」という構想があります。
近い将来,産業人口の変化により,3人で行っていた作業を1人でやらなければならない時代が来るからです。
その時に必要なのは,「少数の人間をリーダーとするAI・ロボットとのチーム」です。このような人間とAI・ロボットの共同作業と手段により人間一人当たりの生産性を向上させる必要があるのです。このような取り組みは「デジタルコンストラクション・情報化施工」と呼称され,既に試験的な取り組みが実施されています。例えば下記です。
https://www.youtube.com/watch?v=xktwDfasPGQ
上記の例では始めに曲面をなす壁を持つ約38㎡の住宅の躯体を,建設材料を出力可能な3Dプリンターが24時間程度で完成させています。その後,塗装・断熱材の充填・防水加工・窓のはめ込み・家具の搬入などを人が行っています。このような人とロボットとの分業により,時間・コスト・環境負荷を低減させる取り組みです(デザインに個人的な疑問が少々?)。
この他にも,新人でも熟練者と同等の重機操作を可能にするセンサーとAIの支援を受けた施工システム,若しくは完全な遠隔操作,ドローンとセンサーを用いた遠隔施工管理システム,などの開発が進められ,一部はパイトッロプロジェクトとして現場に導入されています。これらは「i-Construction」サイトから閲覧可能です。大きな潮流をぜひご覧頂きたいと思います。
http://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/index.html
上記から「施工管理」,「設計・計画」以外の分野にとっても,建築情報技術の適用は分野を救う必須の「白馬の王子様」であることが分かるかと思います。
7.なぜこんな研究テーマに?
次に冊子のサブテーマ「若手研究者は研究テーマといかに出会い、発展させてきたか」,研究懇談会の主旨にある「学生諸氏へ」です。これは修士課程,博士課程を検討している人をイメージして書きます。
まず整理の意味でも前述した個別の契機を総称すると,クリティカルな契機は「他分野との研究者,気持ちが良い人との出会い」です。事例を教えて貰った雑談,食事をしながら語った構想,などです。
任期付きの宿命に流され大学も学科すらも転々とするなかで,上述以外にも多くの他分野の研究者(スポーツ心理・生理,生命倫理,脳科学,神経細胞学,教育学,気象学,生態学,認知科学,臨床心理,など)が真摯に未来に向けて活き活きと,やはり苦労しながらも楽しそうに知性・学問・科学と向き合い活躍している姿を目の当たりにしました。
建築村にいると,動きの遅さから,もはや物事が動かない,進化しない,研究って意味あるのか,と感じることがあると思います。しかし他分野では凄い速度で物事が変化しています。それを体感している真の研究者と,建築村のある集落の村民でしかない者との価値観の違いは非常に大きかったです。勿論,建築分野,研究者でなくても気持ちが良い人との出会いは重要な契機です。任期付きは所属を変えやすい,という宿命が活きた訳ですが,不安の塊です。
次に示せることは「目標がはっきり分からなくても,その場その場で真面目に頑張れば,少なくとも36歳までは何とか家族と楽しく生活できている」という事実です。
所属は,日本大学で学位取得>立命館大学>中央大学(人間総合理工学科)>早稲田大学(人間環境科学科)>立命館大学,という遍歴で,現職が「任期制講師」のため,これからも必要としてくれる職場・居場所を探し続けると思います。
このような過程は不安との闘いで,常に低度のストレスに晒され,ビジョンなど描く気も起きず査読付き論文を通すことに終始する,という状態に陥りやすく,完全に陥っていました(今もやや)。
3年前(33歳前後)にようやく,「自分のこれからの目標,そしてこれまでの活動はそこに至る過程だった」と確信犯になれました。ただしばらくは表題を掲げたら「偉い人に目を付けられて任期無しになれないかも…」と怯えていました (なにせ任期制講師なので今もやや)。積極的に姿勢を明示できるようなったのはごく最近です。こんな感じでも1サンプルですが今は何とかなっています。
技術が日々進化し,知性・学問・科学のみならず価値観までも変わる,それを若手発信とする可能性もあり得る時代です。
研究は「位置づけ」から始まりますが,研究を始める時には,打算的にならず,整った位置づけを繕おうとせず,単純に好きなこと・純粋に興味があることで自身と自信も磨いた方がいいと思います。「いいと思います」と書きましたが自分の希望です。
若手?研究者としてさらに若い人に伝えたいことを自らの願望として記して,まとまらないまとめとします。「気持ちが若い,気持ちが良い人と雑談したい」「任期に怯えながら研究するのは辞めたい」「任期があってもビジョンを描きたい」「建築以外の学問もしっかり勉強したい」です。
以上です。
8.おわりに
紹介した研究や事例はいずれも試行段階です。少し先の未来の創造であり,何にもならない無駄かもしれません。しかし,ビジョンを持った挑戦と探求は革新の礎になると信じたい。そしてその探求を通した人材育成こそ大学の役目だと思います。近々の具体的な課題を解決するためにも,革新を成し遂げるためにも,建築だけでなく情報技術にも長けた人材育成が重要なはずです。
人は歳を重ねるほど賢くなりますね。一方で無駄を嫌うようになり,これが過ぎると新しいことを試みようとしなくなるのではないでしょうか。組織もそうでろうと思います。
建築・都市はどうであろうか,自らの専門分野はどうであろうか,建築学会はどうであろうか。
数年で答えは見えるだろう。流れは思っている以上に速くて強い。
最後に,「気持ちが若い人達と,楽しく真剣に目指したい場所」を図として載せ,終わります。この原稿が面白いかも,と思って頂けた方はオンライン・オフラインを問わずにぜひ気軽にお声ください。本当の研究自分史は小学生から始まります。
なお夢追いかけ研究だけなく,課題解決を意図した工学的な研究もしております。近年の割合は半々くらいかな。
“「建築家をコロス(人間拡張),建築もコロス(空間拡張)」の補完” への8件のフィードバック
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