大学においてデザイン教育も学問として扱うべき:集合知とのさらなる発展・デザイン版インパクトファクターによる価値明瞭化と付加

夏の建築学会全国大会、情報システム技術部門の研究協議会「建築と情報-これからの建築学に向けて、日時:2022年9月6日(火)13:45〜17:15、オンライン」にて話題提供させて頂いた原稿とスライドをご紹介します。(一部加筆と修正)

一部の方だけでも共感して頂けたこと嬉しかったです。コツコツと主張して参ります。

なお建築学会の会員の方はもっとちゃんとした原稿で構成されている非常に充実した冊子を,こちらから閲覧?購入いただけます。
と思ったら2023年9月以降みたいです,,,既に偉い人たち,頑張って欲しい。偉くなりたいよう,偉くならなければいけないような,そうでもないよう,・・・
(公開されましたー)

それではご紹介します!スライドは後半です

原稿

pdf版はこちら(WEBは文字数削減前・加筆版,PDFは上記発表時版です)

題目

大学においてデザイン教育も学問として扱うべき:集合知とのさらなる発展・デザイン版インパクトファクターによる価値明瞭化と付加

1.「デザインを学問,すなわち集合知として前進」そして「建築に確実に内在しているけど不明瞭な大きな価値である「参照・引用」して貰った(影響を与えた)という価値を明瞭に」へ

筆者は建築教育への情報の適用に積極的に注力しながら大学で教育・研究に従事しています。その意義は,IT人材の不足という社会的要請に応じることです。バーチャルフィジカルシステムの実現による建築・都市デザインの拡張による新たな未来像の探求という意義と楽しさもあります。しかし,他に重要な意義があります。それは,社会的な要請と,大学のデザイン教育,主に演習に内在・蔓延する根本的かつ原始的な問題の同時解決の可能性です。

今回の研究協議会を主催する委員会名にはデザイン科学と【科学】が冠されています。しかし筆者は,現在の大学における建築・都市に関するデザイン教育(主に演習)は十分に科学にはなっていない,学問としての教育(演習)になっていない性質が余りに強い,と考えています。

そこで「デザインを学問,すなわち集合知として前進」させるために,特に何とかしたいことが,まず二つあります。一つ目は「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」です。二つ目は「プロセスの不開示とプロセスに対する卑小な評価」です。そしてこれが実務にも適用されれば,建築に確実に内在しているけど不明瞭な大きな価値である「参照・引用」して貰った(影響を与えた)という価値が明瞭になり,この価値が歴史家や批評家の方だけに限定されない増大に繋がると考えています。


2.「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」→「オリジナリティの詐称疑惑の量産と,その罪悪感の希釈」

まずは一つ目「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」についてです。

とても悪い表現なのですが,現在の演習を筆頭とするデザイン教育で行われていることの多くは「オリジナリティの詐称疑惑の量産と,その罪悪感の希釈」の側面があります。その原因は「オリジナリティ・面白さ,結果(プレゼン)に対する偏重」だけでなく「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」にもあると考えています。このような成果物の提出を,僕は「先人の成果に対するただ乗り・尊敬や感謝の不十分さ・偽り」と解釈します。「参考・引用文献の明示」は「先人に対して示すべき感謝の表現」です。デザイン分野では時に先人達を神格のように大切します。尊敬・感謝が無いとは思っておりませんが,表明を不明瞭にするのは不適切であると考えています。「参考・引用文献の明示」は,「提出物を参照したい,真似したい,と思った時にそれを円滑する贈り物」です。ぜひ次に学ぶ人のために明示して欲しいと考えています。加えて「参考・引用文献の明示」は,「自身の提案の位置づけ,望むのであればオリジナリティの主張」に有用・必要なことです。この意味でも必ず明示するべきです。

以上のように,「参考・引用文献の明示」の欠落は,学問すなわち集合知としての前進を妨げます。そのため何とかしたいと考えています。本来「参考・引用文献の明示」は学問の場では当然なことです。演習を筆頭とするデザイン教育に馴染みづらいことは理解できます。特に実社会では色々な障壁あるかと思います。それでも,何とかしたいと考えています。理想を掲げれば,大学教育の変化の結果,実社会で公開される作品もそのようになったらいい,と思っています。優しい世界の甘い考えだとしても,障壁多いと思いますが,成果を後世により効果的に贈ってほしいと願っています。建築系雑誌から「感じ取る」こと,重要ですが,学ぶことが多い現代,より学びやい環境に変化して欲しいと考えています。比較に意味は無いかもしれませんが,情報分野で影響力ある成果発表には真似の仕方が付帯していることも多いのですから。

以上,「オリジナリティの詐称疑惑の量産と,その罪悪感の希釈」を辞め,「デザインを学問,すなわち集合知として前進」させるために,「建築に確実に内在しているけど不明瞭な大きな価値である「参照・引用」して貰った(影響を与えた)という価値を明瞭」にするために,「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」を何とかしたい,でした。


3.「プロセスの不開示」と「プロセスに対する矮小な評価」

特に何とかしたいことはもう一つあります。二つ目は,「プロセスの不開示」と「プロセスに対する卑小な評価」です。

まず「プロセスの不開示」についてです。学問,すなわち集合知の場では「方法論の開示」は必須です。それは追証や知見だけに留まらない方法論までの共有のためです。方法論が開示されていないと,その成果を別の人が参照しづらく,集合知の形成に寄与が低い時もあります。それでも刺激になる時は多々あります。一方で,また表現悪いのですが,ただの自慢・宣伝に留まる時もあります。そのため,「デザインを学問,すなわち集合知として前進」させるために,「プロセスの不開示」という提出形式を何とかしたいと考えています。

次に,「プロセスに対する卑小な評価」です。この原因の一つは「結果(プレゼン)に対する偏重」であると考えています。プロセスが開示されづらい原因でもあります。

少し話しが逸れたように聞こえるかもしれませんが,近い将来に訪れる様々な変化・危惧に応じるためには,「良い空間」を「良いプロセス」で作らなければなりません。「良いプロセス」とは,高密度な,質の良い思考・施工・運用です。この時の「良いプロセス」は,プロセスを現在の「良い空間」に無理にフィッティングするだけでは良さが不十分に留まるかもしれません。そのため,「良いプロセス」にあわせた「良い空間」を探求・発見する必要もあると考えています。その延長に「良いプロセス」によってこそ産み出されるまだ見ぬ新たな価値の創造があるのではないでしょうか。このためには「プレゼンテーションという結果」を追求するだけではなく,「プロセス」を学び,探求した成長,それを評価すべきと考えています。しかし,現在は「結果(プレゼン)に対する偏重」が顕著であると言えるのではないでしょうか。社会においても,競争市場という現代の豊かさを作り上げた原理・説明責任・ファストコンテンツ社会の弊害が現れ始めていると感じます。デザイン分野でいえばコンペの大流行,その教育現場への過剰適用の弊害です。大量の建築嫌いを産み出しているのでは,と自問する時も多々あります。同時に,この弊害に対して違和感をもち,異なる価値観が見出されている息吹も感じます。この息吹は前向きに作用することもありますが,デザイン教育を後ろ向きに脱したり,設計・建築嫌いになる場面も目にします。

やや話しが逸れてしまいました。先に「プロセスの不開示とプロセスに対する卑小な評価は一体である」と記記しました。筆者の肌感覚として,昨今の学生は教員の評価に敏感です。実社会でも同様かは分かりかねますが,昨今の学生には限られないと思います。評価側が「プロセスに対して卑小な評価」であれば,評価される側もそうであるのが自然です。

このような現状のまま,プロセスに注力を促す,ましてや両方への注力を促すことは酷の極みです。そのため,プロセスに対する思考・挑戦心・学習の度合いが低く,評価もされないので「プロセスの不開示」が起きると考えています。そうだとしても,「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」は見過ごせないのですが。「良いプロセスの探求」は,すなわち「自身と集合の成長の優先」とも言えます。そのため「プロセスに対する卑小な評価」を何とかしたいと考えています。

以上のように,大切なかつ真剣なので繰り返しますが
「デザインを学問,すなわち集合知として前進」させるために,
「建築に確実に内在しているけど不明瞭な大きな価値である「参照・引用」して貰った(影響を与えた)という価値を明瞭」にするために,
特に何とかしたいことが先ずは二つあります。
・一つ目は「参考・引用文献の不掲載を当たり前とする学術という場の基本ルールの不適用」です。
・二つ目は「プロセスの不開示」と「プロセスに対する卑小な評価」です。
ここで 登壇依頼の本筋である 建築情報学 に関する授業紹介を振り返ると,建築情報学を推し進めることは,上述の課題の自然解決につながると思っています。前段が長くなりましたが,上述のような意図も持って行っている授業群を後述します。前段と書きましたが,上述のことは,本当に基本の基本であると同時に,【デザイン】を【科学】として扱うために根本的かつ根源的な課題なのではないのでしょうか。これを建築情報学が社会的な要請と同時解決し得るなら,積極的な推進には一時のトレンドに留まらない大きな価値があるのではないでしょうか。この意識からも意欲を持って取り組んでいる筆者の授業を次章で紹介します。この前段も内容も苦心している内容です。どうすればいいのかお話しできればと思っています。


4.筆者の授業紹介

  • 情報処理(1回生前期)

プログラミング基礎と思考を体験的に学ぶ授業です。Pythonの基礎文法を学び,Turtle Graphicsを用いて幾何学模様も描画し,それを模型としてクラスと一つの作品を作る授業です。建築系の学科ではプログラミングは必須とされておらず,興味を持っている学生も残念ながら多くないことから「デザイン」と連携させた内容としています。また模型制作とも連携し,情報空間を実体化するというデジタルファブリケーションの有用性,施工がデザインにおいてクリティカルであることの体験的理解も意図しています。

http://satoshi-bon.jp/category/lecture/info_pro/

  • 情報処理演習(1回生前期)

コンピューテショナルデザインの基礎と思考を体験的に学ぶ授業です。昨今の入学者の興味が強い「環境」と連携させています。具体的には3dsMAXの基礎を学び,Flow Designを用いた風の解析を活用して集合住宅のボリュームスタディを行う,という内容です。この授業では手段の学習を優先しています。理論や環境計画に関する知識が重要です。ただ全てを同時に教えると何が分からないのか分からない,という状態に陥ります。操作が分からないのか,理論なのか,活用方法なのか,それが分からないという状態です。加えて,順序よく本質的である一方で抽象的な理論や概念の理解から始めることが,学生へ伝え方として必ずしも良い順序ではありません。このような観点から,この授業ではともかく「出来る」という状態にすることを優先し,理論・計画・活用方法は後期の環境系の授業(環境を専門とする別教員が担当)で学んで貰う,という連携にしています。

http://satoshi-bon.jp/category/lecture/lec_info/

  • CAD/CG演習(2回生後期)

3次元的なコンピューテショナルデザインの基礎を再び学ぶ授業です。再び,と書きましたが授業の最初の約3回は本当に前述の「情報処理演習」の復習を主体としています。学生は一度習ったことを覚えている,咀嚼できているとは限りません。そのため大切なことは何度も咀嚼する機会を作ることが重要です。復習を含めて授業の前半はこの段階までは,ほぼ全ての学生が取り組んでいる「デザイン」に関する演習(計画・設計を専門とする別教員が担当)と題材を連携させています。後半は情報処理演習では手作業で制作した情報空間におけるデザインの実体化を実際にデジタルファブリケーション技術により制作する内容としています。

http://satoshi-bon.jp/category/lecture/lec_cadcg/

  • BIM総合演習(3回生前期)

BIMを用いたデザインの基礎と思考を体験的に学ぶ授業です。BIMモデリングを学んだ後に,複数のシミュレーション結果を総合的に解釈してコンセプトモデルを決定してデザインを飛躍させる内容です。総合的な解釈において「統計」と連携しています(RとPython)。「統計」は21世紀の新たな教養ですが,情報と並びカリキュラムから抜け落ちている内容です。建築系の学科の学生が意欲的に取り組めるよう,BIMやデザインの一部であり連携した内容として教えています。

http://satoshi-bon.jp/category/lecture/lec_bim/

  • デザイン演習3 後半課題(3回生後期)

建築情報学に特化した授業でありません。与えられたテーマに対してオリジナル作品をデザインする伝統的な建築系学科の授業です。伝統的な演習の重要性を尊重しつつ,建築情報学を適用している点は三点です。一点目はコンピューテショナルシンキング学習を意図したメタデザインを課すことです。ただ建築情報学に疎い学生さんも多くコーディング・実装を必須とはしていません。二点目はサブテーマです。駅前広場を対象にランドスケープデザインを行う課題なのですが,近い社会の重要なテーマであるMaaSを意図した車中心ではない人間とロボティクス中心の駅前広場,加えて情報技術を活用した「コモングラウンド1)2)」をサブテーマとして教示しています。三点目は模型と映像表現の選択制です。固定された物質に限らない提案を思考する学生さん達の提案は紙や模型といった固定された表現では伝えづらい時が多いです。そのため「視点が固定されない表現媒体」として模型の提出を必須とせず映像・インタラクティブコンテンツの提出を認めました。

1点目と2点目は十分な浸透からはほど遠い状況です。3点目は3割程度ですが意図を汲み取った学生さんが現れました。非常に嬉しいです。ただ筆者が伝統的な演習に建築情報学を適用する主目的は一点目と二点目です。参考文献の明示さえ十分には守られませんでした。またそれを不受理とするには時期尚早でした。まだ担当一年目ではありますが,課題が多いのが現状です。

http://satoshi-bon.jp/category/lecture/lec_design_ex/

  • 都市調査実習(3回生後期)

工学的分野の学術的な調査とそれらに基づいた提案を体験的に学ぶ授業です。学生の興味に応じた工学的な調査方法を個別に立案し,対象をデータとして解釈する授業です。BIM総合演習では扱いきれなかった統計を更に学び,発展的な機械学習を理解するための基礎も学びます(RとPython)。


5.デザイン版インパクトファクターを考えたい

話しがいつものように逸れて行くので短めに。ここまでの内容は実社会にも反映されて欲しい,されるべき,と思っています。それはある建築が利用者だけでなく,特にデザイン限らない建築に関わる人に影響を与えたという価値が明瞭になるからです。「参照・引用」を有難く思わない・思えない,明示しづらい状況があることも理解しているつもりです。(大学という学問の場では既に明瞭なルールがあるので例外扱いは辞めよう)そこで深層学習を基盤とするAIを用いた方法の研究(3 種の深層学習を用いた建築デザインの参照関係の可視化と近似性の解釈)も実施しています。


6.終わりに:情報技術によって訪れて欲しくない・望ましい未来があるならば,望む未来を提案しなくてはならない,望まない社会にならない保証はない

もう止まらない情報化社会において,建築・都市を学んだ自身は10年後の社会にどう貢献できるのか。これを考える上でも,建築情報学の建築教育への適用は重要です。例えばWoven Cityが実現した社会において,自分はどのような価値観を持って生き,何を提案できるのか,このような視点を持って学んでいる学生さんが非常に少ないのが現状です。雑談の中で,将来は情報に管理された生物工場のような社会になるのか,という質問を貰ったことがあります。僕は「情報技術の発展によって訪れて欲しくない・望ましい未来があるならば,望む未来を提案しなくてはならない,望まない社会にならない保証はない」と答えました。建築・都市が近未来において価値や社会を創造する側でいるために,積極的に建築情報学を学び,将来を想定して全ての学習・演習を行うべきと考えています。

しかし一方で,以前として価値付け不明瞭で,本音では疑義的な目を向けられることもある建築情報学の普及には,包括的な戦略を持ちながら,局所的かつ静かに既存分野に浸透させていくことが大切と考えています。そのためには,新しい概念ではなく当たり前,として認識して貰うことも重要です。そのため1年生を重視しています。情報技術の活用には専門的な知識が必要ですが,それを学ぶのは進級後です。それを待たずに導入する,ということも重要です。この点も加味して筆者は科目間連携を試行錯誤しています。特定の教員が全てを理解して教える必要はなく不可能です。しかし必ずしも教員同士が授業で連携している,といえない面が事実としてあります。このような科目間・科目内連携が可能な人間関係を学科内に持つことが極めて重要であり,そのような授業を考え実施することにやりがいと楽しさを感じています。

一方で,大きな制度改革の思考も必要です。建築系学科の6年制への移行,一級建築士制度の改革・廃止,なのでしょうか。建築情報学を扱える教員が少ないことは大学に限らず,自明極まりない課題です。身近な範囲ではありますが,建築分野で情報を学んだ人達が建築分野以外に流出することを何度も目にしています。この自明の問題は水面下で建築情報学の導入を進めるとしても大き過ぎる問題でしょう。どのように制度改革するのか,何も具体的な内容はありません。加えて紹介した授業も試行錯誤中です。建築情報学に限らず新規的な分野の楽しさをいかに学生さんに伝えるか,それをいかに体系的に大学に実装するか,急ぎ目に皆さまと考えたいと思っています。


参考文献

  1. 豊田啓介:建築都市空間デジタル記述のためのコモングランド構想について,生産研究,74巻1号,pp.139-142,2021.12
  2. コモングラウンドと次世代型社会基盤,https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bunyabetsu/machizukuri/pdf/digital04_5.pdf(参照日:2022年7月30日)
  3. 角田大輔:建築が拡張する新しい情報領域,学内講演会のため参照先無し(講演日:2021年1月8日)

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