とある経緯で高校3年生から進路相談を貰い,文字でやり取りしました。
(友人の友人,といった感じで会ってこともない人)
個人的な想いから,けっこう頑張って書いたし,同じように悩んでいる高校生が居るのかな,とふと思い。掲載しておきます。
誰かの何かの参考になれば幸いです。
なお丁寧なお礼などは割愛しているので悪しからず。
最初の質問
立命館だったらデザインが苦手だから建築都市デザイン学科より都市工学科かなって思ってたんだけどやっぱり建築にも興味あって悩んでいます。建築デザイン学科だから芸術系のセンスとかがないとキツいですか?
絵が下手だし芸術のセンスとか面白い発想力が全くないんだけどそういう人でも大丈夫ですか?
(原文,お友達に送った文章なのでカジュアル)
お返事(大学教員なので話が長い)
全く問題ありませんよ。
絵が上手に描けたり,美術の点数が良かったり,発想力がユニークで困ることはありません。
ただ,そうでないと駄目ということは全くありません。
そうでなくても,建築都市デザイン分野の中で,学びたいことや目指す進路は見つけられます。
その理由は建築・都市とは何であるか,という問いに対する一つの答えにあります。
答えは沢山あります。一つに「総合芸術」という考え方があります。
文字通り,様々な技術・専門性・社会・歴史・文化,が総合的に結実した作品,という意味です。
建築・都市のデザインというと聞くと芸術の要素が強いと思うかもしれません。
しかし,上記の意味で,それだけでは無いということです。
事実,建築のデザインは,感性と技術の両輪で展開して来ました。
例えば,コンクリート技術の発展と前後で,建築のデザインは大きく変わっています。
鉄とガラスの技術の発展の前後でもそうです。
僕が専門としている建築情報学の視点だと,コンピューター・インターネットの本格的な普及・発展の前後でもそうです。
と言ったように,絵の上手さ,共感を得やすいという意味での感性の良さ,あるいはユニークさは,あって困ることはありません。
でもその要素だけが常に重要とは限らないのです。
さらに言えば,建築・都市デザインの評価視点は,デザインとして美しさの共感度が高いか,あるはユニークであるかということだけでもありません。
例えば,ハウスメーカーが提供する戸建て住宅。
雑に見れば,代わり映え無い平凡で退屈なデザインに見えると思います。
しかし,汎用性の高い優れたデザインとも言えます。
その住みやすさ・費用・普及容易性は,社会・私たちの生活を支える重要な基盤です。
(必要条件です)
一方で,美しい美術館,その審美性は別の評価視点で私たちの生活に必要な基盤です。
余暇・文化的な豊かさの基盤です。
(十分条件です。ただ考え方によってはこれも必要条件です)
このように,ある時は機能性や汎用性が主な評価視点になり,ある時は別の視点が主な評価視点になります。
他にも,総合芸術の総合を成す要素・評価視点は沢山あります。
構造,施工,材料,管理,設備,環境,などなどです。
この中に,気にしている芸術性・発想力だけ重要ではない,自分が学びたい・進みたい進路があるはずです。
個人的な話しをすれば,僕は「技術に対する実力の高さが,感性の高さを決める」が持論です。
(ちなみに僕の推しは建築分野における情報学です(=建築情報学))
建築・都市の広義の意味でのデザインに興味があるなら,多少の絵の得手不得手を気にせず,安心して前向きに検討してください。
ちなみに,都市工学と建築学では,主に扱うスケール・ディテール(計画の具体性)が違います。
こんな感じでしょうか。
他にも聞きたいことがあったらどうぞ。
なお,あくまで傾向として,相対的にですが,建築系学科でキラキラしたキャンパス生活は送りづらいかもしれないので,その点も知っておいた方がいいかもしれません。
学ぶことが多くて忙しい,という意味です。
最後に一つ。
「何かやりたいことがあるけど,これが欠けているから挑戦しては駄目,ということは何一つありません」
ただ,悩むことは良いことです。
誰よりも悩んで,最後は自分の感覚だけを信じて決めてください。
悩んだ量が,覚悟の量,決定後の推進力になります!
あと,建築都市に関する本を読んでいなかったら,読んでみることを勧めます。
次の質問
お話にありました「都市工学と建築学では主に扱うスケール・ディティール(計画の具体性)が違う」ということについて伺いたいのですが、具体的にどのように違うのか、教えていただきたいです。(原文)
またお返事(やはり長い)
>違うのか、教えていただきたいです。
建築学は都市工学より狭域の対象を主に扱います。 単純に広さや大きさのことです。 何かしら全体は部分の集合であり,また何かの部部ですので,このどの段階を主に扱うか,ということです。 例えば,関東地方は県の集まりですね。 県は市の集まり,市は町丁目の集まり,以下続き,一人一人の集まりですね。 そして関東地方は日本の部分です。 学校だと,ある地域は学校の集まり,学校は棟の集まり,棟はフロアの集まり,フロアは教室の集まり,教室は席などの設備の集まり,設備は工業的な部品の集まり,部品は材料の集まり,材料は原料の集まり,以下続く,ですね。 このどの段階は主に扱いたいか,ということです。 「主に」という副詞には意味があります。 いずれの段階も他の段階と連続なので,建築系学科にも都市分野があり,都市系学科にも建築分野があります。 ただ主に学ぶ内容が違います。 例えばイオンです。 用途地域の指定や道路計画を都市系では主に学びますが,建築系では違います。 道路によって区切れらた敷地内の建築計画を建築系では主に学びますが,都市系では違います。 建物の各部屋の内装を生活・プロダクトデザイン系のでは主に学びますが,実は建築系では違います。 (実はインテリアまでを建築系学科では主に学ぶ範囲に必ずしも含めません) イオンや内部の店舗のビジネスを経営系の学科では主に学びますが,理工学系では違います。 もちろん,主な段階以外を意識はします。 ただ,大学として主な授業できる量に限りがあるので,スケールが異なって来る,ということです。 実は,上記のことは何かの議論をする時のお決まりのメタ的な議論です。 そのため領域横断が進んでいるのですが,解決が難しく,今でもほぼ同じです。 ちなみに,僕のお勧め分野は建築情報学です。 (建築分野の情報学,あるいは情報分野の建築学) 情報は上記の段階に限らずどの分野でも大切です。 繋ぐ要素でもあります。 かつその情報を,フィジカルかデジタルかを気にせず建築という分野で学ぶことに意義を感じています。 という宣伝を最後に加えて,送信します。 気になることがあったら再度どうぞ。お礼に対してお返事
受験勉強,頑張って!
何かを学ぶ力そのものが将来でも大切ですので。 それでは!続く質問
もう1つ伺いたいのですが、建築都市や都市計画についての山田先生のおすすめの本はありますか?
お忙しいのにも関わらず、何度も質問してしまってすみません。よろしくお願いします。(原文)
またお返事(苦手系なので短い 笑)
的確に答えたいけど苦手かつ本来は教員として用意して置かないといけない質問来たーーー 笑
苦手なので学科の他の先生にも聞いてお返事
◆建築(図多め)
建築設計のための教科書 [高松伸]
山梨式 名建築の条件 [山梨 知彦]
建築の言語[ビジュアル版建築入門編集委員会]
◆都市
集落の教え100 [原広司]
環境ノイズを読み、風景をつくる。 [宮本佳明]
私たちが住みたい都市 [伊藤豊雄]
◆デザイン全般
デザイン脳を開く [宮宇地一彦]
不便益という発想[川上浩司]
—学科の他の先生からのお勧め—
建築:森田慶一『建築論』
建築史:ケネスフランプトン『現代建築入門』
都市:陣内秀信『イタリア 都市と建築を読む
後書き
抑えようと心掛けたけど個人的な想いがほとばしっている。
この手のことは毎回そうなのだけど,今回も自身を見つめる良い機会でした。
ともかく,若人に幸あれ!