フィジタル / Phygital な 研究の紹介

2025年情報システム技術部門―研究協議会「建築・都市分野のVR・MR技術への期待」に寄稿した原稿です。

山田悟史:価値の提示と価格の創出に向けた試行・デザイン活動のススメ:建築家をコロス・建築もコロス その2

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1. 価値の提示と価格の創出

 建築情報学に期待されていることは,建築・都市分野の「維持」と「拡張」と考えています。「維持」は主に「効率化」です。人口推定の通りに産業人口の減少を身近な生活から感じるようになりました。減少は当然の訪れですので,驚きは少ないです。しかしそれを身近な生活を通じて感じることになり,いよいよだ,建築・都市分野の対応は間に合うのだろうか,という実感を深めています。このように極めて重要なテーマであるこのような建築情報学による「維持」について,多くの取り組みが行われており,感嘆をもって日々拝聴しています。筆者らも自分達なりに関わる研究を行っているつもりです。

一方,「拡張」に資する思考や試行となる研究はいかがでしょうか?「拡張」を山田なりに表現すると,「価値を提示し,その共感を広げることで価格を創出する」です。このような研究は「維持」と比して少なく,建築分野は伝統的に苦手なのではないか,とも感じています。そこで,心構え的な教育の観点からも,「建築の価値の拡張」を意図した研究・デザイン活動の試行を行っています。本寄稿では,それらの試行を紹介させて頂きます。

ただ,凄い内容ではありません。急に凄いことすることも筆者にはできません。もしかすると,皆さんも同じかもしれません。必然として産業人口の減少が訪れたにも関わらず,対応できないのと同じです。建築・都市分野の価値と価格の減少が訪れた時も,急には対応できません。そして,手段をフィジカルにこだわり続ける場合,価値と価格の減少は避けられない,と思っています。

 以上の観点から,本寄稿の意図は「建築・都市分野における価値の提示と価格創出に向けた活動のススメ」であり,仲間募集です。この原稿を目にした方が,自分達も試行をしてみよう,できそう,それを共有・共同しよう,と思って頂ければ幸いです。

 なお上記の意図を扇動的,ではなく先導的に端的に言語化していたのが,筆者が研究目的として標榜する「建築家コロス,建築コロス」です。2018年度 建築計画部門 研究懇談会「建築・都市・農村計画研究のカッティングエッジ―若手研究者は研究テーマといかに出会い、発展させてきたか―」にて広く標榜させて頂いたテーマです。併せてご覧頂ければ幸いです。

2. MRデバイスを用いた文化財の複合現実化による保全活用:長江家住宅を事例として(リーダー:東田 陽樹)youtube(修士研究)

 紹介する活動は,MRを用いた文化財の保全活用の可能性の提示を意図した「京町屋を複合現実化したMRコンテンツの作成と検証」である。実施に際しては,文化的・建築的な特徴を空間と繋げて学べること,能動性をもった空間体験となること,を重視した。題材とした長江家住宅以外への文化財への興味関心を喚起し得ることも企図して実施し、検証も行った。取り組みでは,「解説の表示,アバターによる案内,長江家のかつての生活の表示,非公開箇所の表示,体験者の理解を深める行為の誘導,案内図の手元表示」をMRにて実装した。検証から,このような取り組みは,文化的・建築的な特徴を空間と繋げて学べる能動性をもった空間体験であり,文化財への興味関心の喚起に寄与することを確認できた。


3. 寺院建築における仏教を背景としたPhygital空間体験の設計(リーダー:小泉 彰也)youtube 卒業設計, 修士研究

 本章で紹介する活動は「浄土真宗の社寺建築の本堂の本来的な意味である仏教体験着目したPhygitalな空間デザイン」である。共同性と仮想性,デザイン性の観点から仏教体験・本堂・デジタルといった三者の親和性を見出し,建築とデジタル表現が相乗的に仏教体験を演出するPhygital空間の在り方を提示し、その効果を検証した。検証果から,このよう本堂の本来的な意味である仏教体験に基づいたPhygital空間の体験設計,物質及びその背景に対する尊敬とPhygital性をもった設計が,建築と仏教体験の価値を相乗的に高め得ることを確認できた。

4. 家を思い出帖に -デジタルコンテンツ・空間・人間の相互作用によるデジタルリノベーション-(リーダー:小野 葵)youtube(卒業設計)

 本章で紹介する活動は,空間の建築的および文化的な意味合いフィジカルな保存でデザインを意図した「家の思い出帳~デジタルコンテンツ・空間・人間の相互作用も含めたデジタルリノベーション~」である。村民単位の生活文化を継承するために,文化財には指定されるほど古くはないという意味では,一見すると何てことのない古い木造住宅をデジタルリノベーションし,思い出帖としてのフィジタル空間を設計した。設計においては,村・個人の生活と文化の追体験型アーカイブ空間となること,実際には体験したことは無いけれど懐かしさを感じるメディテーション空間となることを重視した。

5. STEAM教育 BKC HACK

電脳漣漪:Cyber Ripple youtube / Re FLUCT youtube

 前章までのような活動に対する潜在的な憧れと躊躇に対応する教育・研究のために,STEAM教育の一環として学科・学部・所属を超えて行っている活動を行った。このような活動の学習効果は,専門性以外に対する成長もふくめて高いことを確認することができた。

6. 社会による「建築家はコロス,建築もコロス」

 2018年に「建築家をコロス,建築もコロス」という研究目標を怯えながらも標榜して7年が経ちました。山田自身によるアサシン活動は余り進んでいません。一方で,山田以外による,社会による本当の意味でのアサシン活動は進んでいるのではないか,という危機感を強く感じています。山田自身によるアサシン活動は余り進んでいませんが,2018年に標榜させて頂いたことは,推進力になりました。本寄稿を契機にさらにアサシン活動に励みます。皆さんもいかがでしょうか?